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スリープテックは「リズム」を知るカギに 睡眠の質向上がもたらす健康への影響
現在、睡眠不足世界一の日本。さらにコロナ禍でY世代を中心とした働き世代は、生活リズムが変化し、「質の良い睡眠をとること」が大きなテーマとなっている。そこで、睡眠が健康にもたらす影響と、開発が進む昨今のスリープテック事情、そこから得た睡眠データや分析の活用法など、睡眠行動科学の権威である、東京家政大学の岡島義准教授に伺った。
岡島 義
岡島 義
東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科 准教授

途中覚醒平均は3~40回も。 不眠という自己暗示に注意

日本人は睡眠不足世界一なのですね。そのイメージがなくて驚いたのですが。

岡島 義さん

そうなんです。ただ、理由はよくわかっていません。アジア全体の特徴かといえばそうでもなく、中国は長い。日本と1位を争っているのが、働き方や勉強の仕方など、社会的な面で共通点が多い韓国なので、遺伝的なものではなく「睡眠を削って頑張ろう」という文化的な特徴が関係しているのではないかなと思います。

日コロナ禍になり、家で仕事をする人も増えました。オンとオフの差がなくなることで、さらに睡眠不足の人は増えたのではないでしょうか。

そう思いますよね。それが実は逆で、コロナ禍になってから、睡眠時間6時間未満の人が減っているんです。やはり、Y世代などの働き世代にとって、睡眠時間を削る要因になっていた「通勤時間」が無くなったのが大きいでしょう。
ただ、睡眠時間が伸びた一方で、ちゃんと眠れた気がしないなど「質」は落ちたという人は多いですね。通勤で伴っていた運動量が減るなど、生活習慣の変化が影響した可能性は高いです。

さきほどから睡眠の「質」という言葉が出てきますが、睡眠の質がいい悪いは、どういった基準で分かれるのでしょう。

難しいのですが、一般的には「休養感」という表現がわかりやすいかもしれませんね。睡眠から目覚めたとき、心と体の疲れが取れた感覚があるかどうか。ただ、人によってバラバラ、統一されていないのが正直なところです。だから実際の臨床現場では、眠れていないと思うのはなぜか、日中に支障が出ているのかなどを詳しく聴き、その人のよく寝た感じや、眠れていない感じを具体的に確認していく必要があります。

眠る女性

専門的には、実際の睡眠時間と布団の中に入っている時間の割り算で「睡眠効率」を出します。布団の中に入ってすぐ寝て、目が覚めてすぐ起きれば100%。でも絶対途中で起きたり寝つきに時間がかかったりするので、基本ありえません。一般的には90%以上、高齢者であれば85%であれば、比較的よく寝た感じが出てくるとされています。

私は3・4回途中で起きますが、これはパーセントが低いほうでしょうか。

実は、ほとんどの人は、自覚していないのも入れると一晩3、40回は途中で起きているんですよ。脳波を測るとそのくらい覚醒反応が出ます。トイレに行った、時計を見た、という作業が伴った以外のほとんどは記憶に残らず、すぐ寝ついているわけです。
だから、回数はあまり数える意味がなくて、そのあと寝つけるかが重要です。寝ていれば問題なしと考えていいでしょう。でないと「睡眠のことを考えて眠れなくなる」という堂々巡りも出てきますから。自分で悪い暗示をかけない方がいいと思います。

40分の睡眠負債は3週間にわたって影響する

不眠で悩まれる方はとても多いですが、まず睡眠不足と不眠は違います。不眠は、実際眠れているかは別で、眠れないという「感覚」のことです。「感覚」だけなので、実際、日中はちゃんと動けている人が多い。これが大きな特徴です。

もう一つ、朝起きてまだ眠い場合、寝起きのタイミングが悪いだけのケースもあります。深い睡眠のときに無理に起こされると、ボーっとした感覚が続いてしまうのを「睡眠慣性」といいます。これは急ブレーキがかかると進行方向に体がグンと動く、「慣性の法則」と同じです。深い睡眠の途中で起こされると、眠気だけが何時間も続いてしまう。そして「ちゃんと眠れていない。今日はダメだ」と自分に暗示をかけてしまう...。けれど、しばらく経ったら調子はちゃんと出てくるので、これも睡眠不足とはまた違うんですね。

頭を押さえる女性

だから朝起きてすぐ、頭が痛かったり眠かったりしても、「睡眠の質が良くない」と気にしなくていいです。自分の睡眠の評価をするときは、夕方くらいにするのが一番良いですね。

「睡眠負債」という言葉がありますが、これも睡眠不足とは違うのでしょうか。

短期的な睡眠不足は、一夜漬けや徹夜のイメージがありますが、それが慢性化することを「睡眠負債」と言います。
たとえばこんな実験があり、徹夜を3〜4日続けるグループ、4時間睡眠を続けるグループ、6時間のグループ、8時間のグループと分けます。すると、4時間睡眠をずっと続けているグループは、9日目で徹夜チームと同じパフォーマンスになり、6時間チームも2週間経てば、徹夜チームと同じパフォーマンスしか出なくなる、という結果が出ています。
さらには、その睡眠時間の負債を解消するのにも問題があり、スタンフォード大学の研究では、40分の睡眠負債を返すのになんと3週間もかかると出ています。すごい高利子ですよね(笑)。

さらにこの睡眠負債を、週末休みに寝だめして解消しようとすると、今度は「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」という問題が出てきます。
そもそも睡眠を「ためる」ことはできません。けれど勘違いしている方が多く、休日は次の週に備えて寝ることに使ってしまう。休日2日間の朝寝坊でズレた体内時計のサイクルは、簡単には戻りません。月火水の週前半、眠気やだるさが続いてしまうという研究結果も出ています。つまり逆効果なんですよね。調子がいい平日が木、金だけというのはもったいないし、働いたあとの休日こそ、眠るのに時間を割くのではなく、人生を謳歌したほうが絶対楽しい。何とかそれに気付いてほしいですね。

全体的に睡眠時間を増やすイメージを持たないと、悪循環のまま、大切な平日のほとんどを低エネルギーで動いていくイメージになる、ということですね。

その通りです。平日の睡眠をいかに伸ばすかを考えたほうがいいですね。

睡眠前の過ごし方

そのための工夫として、寝る前の1時間は、テレビやパソコン、スマホなどを見ず、穏やかに過ごすのが理想的です。

スマホは、ブルーライトも影響すると言われていますね。

実はスマホに関しては、ブルーライトなどの光よりも、内容が問題だといわれています。全体的に、怖いことはもちろん、楽しいことも、見ると脳が活性化します。だから小説でも動画でも、みなさん好きなものを観ると思いますが、先が気になる内容は避けたほうがいいですね。
実は時計も危険で、なんとなく途中で目が覚めたときに時間を見て「眠れていない」と動揺するもとになります。だから朝のアラームが鳴るまでは、時間を確認しないほうがいいです。
スマホはそのすべてが詰め込まれていますから。時計は見えるし、突然、見たくもない嫌なメッセージが届いたり、仕事を思い出したり。だから、寝床に持ちこまない、もしくは裏返して手の届かないところに置いておくというのは、臨床場面でアドバイスしています。

スリープテックの活用法と課題

最近では、ウエアラブルデバイスや、アプリなどのトラッキングツールで睡眠の状態を可視化できるようになってきました。具体的に、どんなものがあるのでしょうか。

腕時計型や、リング型の脈拍なども測れるもの、マットレスの下に敷き、呼吸やマットの動きで睡眠状態を測るものなど、かなり進化しています。脳波測定器もポータブル型のものが出ていて、家でかなり詳しい数値測定が可能です。ほかに、スマホアプリがありますが、置く場所や体の動き方でうまく測れないケースが多いので、数値を正確に知りたいのであれば、ウエアラブルデバイスのほうがいいですね。ただ、アプリはすぐ確認できるのと、自動解析してくれるという点ではとても便利です。

なるほど、いろんな種類があるのですね。ただ、脈拍や睡眠のデータは、数字を見るだけで終わってしまうことが多く、活かし方が難しい気がします。どう活用すればいいでしょう。

腕時計型の脳波測定器

まさにそうですね。デバイスだけでは、習慣改善までなかなか結びつかないのが課題だと思っています。ただ、自分は眠れていないと思い込んでいた方が、データの数値を見て「意外と眠れている」とわかり、安心して眠れるようになることはあると思います。逆に、データの数字に一喜一憂してしまう方は、スリープテックは向いていないですね。

人によって、スリープテックの向き不向きがあるのですね。

その通りです。また、自分が眠れていないという確信が強い方は、データだけ見せても意味がないですね。実際、患者さんにデバイスのデータをお伝えすると「いや、私の感じている睡眠とは違うから、デバイスが壊れている」と言われることもあります。だから、その人の感覚を大事にしつつ、データの示す意味を説明する必要があります。そこからどう生活習慣を変えればいいのか落とし込んでいかないと、本当の意味での睡眠改善は難しいのが現状です。

最近では快眠アイテムもいろいろありますが、それでもやはり生活習慣を変えることが最も効果的なのですか。

そうですね。一番影響度が大きいです。どうしても人はラクしてよく眠りたいと思うので、ベッドや枕、アロマなどお金を費やしてモノに頼りがちなのですが、生活習慣改善に比べると、影響度はかなり小さいです。
私の授業では、学生に1週間睡眠の記録を取ってもらって、その後「朝ご飯をしっかり食べる」など、睡眠の改善に役立つ行動について説明し、そのなかでできそうことを3つ選んでやってみてと伝えます。すると「朝ご飯を食べるだけでこんなに目が覚めるんですね」とか、睡眠の改善が日中のどう変化するのか、手に取るようにわかるみたいです。

朝食が内臓を目覚めさせる大きなカギ

朝ご飯の話が出ましたが、睡眠にどう影響してくるのですか。

朝食を食べて内臓を目覚めさせよう

朝ご飯のことを「breakfast(ブレックファスト)」と英語で言いますが、「ブレイク」が壊す、「ファスト」が絶食、つまり絶食を壊すことを意味します。この絶食時間が重要で、夜食べ終わってから約10時間から12時間以上。それだけ空いたあとの朝ご飯は「末梢時計」という内臓の時計をリセットする力があり、食べることで内臓が目覚めるんです。だから朝は軽めに取らず、ガツンと魚や肉、ご飯を食べるのがポイントです。この朝ご飯による覚醒は抜群に効果があります。さらに、朝は目から光を取り入れて中枢時計もリセットできると、内臓時計との親子時計がリンクして、いい睡眠ができるといわれています。

なるほど、睡眠は「深く眠ればいい」だけでなく、「脳と内臓への影響を考え、生活を整える」ことを強く意識したほうがいいですね。

その通りです。そもそも、睡眠は日々独立して動いているのではなく、補い合いながら連動しています。臨床心理学の世界では、うつ病の一つに不眠があって、うつ病がよくなると、睡眠も良くなると言われていたんです。けれど、心も身体も病気はまず、睡眠が崩れてくるんですよ。となると、睡眠が全体を支えているのではないかな、と考え始めるようになりました。今では、睡眠をしっかり安定させれば、大きな不調は起きにくいのではないかと思っています。

先生はどのように、睡眠改善を実践されているのでしょうか。

岡島 義さん

私は子育てが始まったことで、自然と夜の9時就寝、朝の6時起床の9時間睡眠になりました。これで日中の眠気がなくなり、常に集中している感じになってきました。朝もガッツリ食べ、かわりに夜は軽めにすることで、体重も落ちてきました。
たまにスリープテックで睡眠データを測りチェックしますが、これでうまく自分の睡眠リズムの予測ができるようになりましたね。予測ができるのはとても大きいです。
たとえば、うまく眠れなかった次の日はよく眠れるはずだから、あえて立ち仕事を増やして、眠くなっても昼寝をせずに起きておく。そうすれば、次の夜はガッと眠れる可能性が高い。そんな風に、一日のリズムを睡眠中心にして、その流れに沿って食事や生活をするように切り替えていったイメージです。

睡眠を中心に1日を考える...目からウロコです。

質の良い睡眠で本来の能力が目覚める

もちろん、睡眠の質と量とリズムをしっかり意識する生活は、現代社会ではなかなか難しいです。それでも、自分を知っているのは自分しかいません。「自分をもっとよく知る」方法として、スリープテックは活用できると思います。
データをもとに、日中の眠気の対応や、自分の生活の波をどうクリアしていくかなど、良い睡眠につながる方法を探ることはできますから。

データを元に自分を知る

現在は、会社で社員の睡眠改善に取り組むところも増えているそうですね。

健康経営のなかで睡眠を取り入れるところが増えています。私はとあるIT系企業と睡眠改善アプリを共同開発していて、これを別の企業の方に使ってもらう機会があるのですが、1か月くらいで調子がよくなる人が多い。つまり、Y世代をはじめ働く世代の多くは、対面の時間は取れないけれどアプリならできる、という風に、テックと親和性が高い人が多いと思います。だからちゃんと効くものを、効く人に届けられる世界になればいいな、と思っています。

昔「24時間戦えますか」というコピーがあったように、いかに削るかという方向ばかり考えられていましたが、今では睡眠は貴重な時間だと認知されるようになりました。それでもまだ日本が睡眠不足世界第1位ということは、自分の本当の能力を知らないまま過ごしている人が、この国にはたくさんいるのではないかと思います。
本来持つ能力を発揮してほしい。そのためにも、自分に必要な時間を見極める機会を作って、その時間しっかり眠ってほしい。それが私の願いです。

岡島 義
岡島 義
北海道医療大学大学院心理科学研究科博士課程を修了、博士(臨床心理学)取得。公益財団法人神経研究所附属睡眠学センター研究員、睡眠総合ケアクリニック代々木主任心理士、東京医科大学睡眠学講座兼任助教、早稲田大学人間科学学術院助教などを経て現在は東京家政大学准教授。
公認心理師、認知行動療法師、産業カウンセラーとして睡眠障害や気分障害、不安症に苦しむ人々への支援を行いながら、睡眠行動科学の研究と実践を行っている。
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