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【現地ルポ】プログラミング学習をゲーム機で。真剣に遊び、学ぶ熊本県山鹿市のデジタル人材育成とは(前編)
2020年から小学校で必修化されたプログラミング教育。熊本県山鹿市では「e-City YAMAGAプロジェクト」の一環として「Nintendo Switch」を使った斬新なプログラミング学習を実施している。子どもたちに新たな“気づき”をもたらし、プログラミング的思考を育む「山鹿式プログラミング学習」について、その実現に力を注いだ人たちを訪ねた。
中川 英明
中川 英明
山鹿市立山鹿小学校 校長
水田 剛
水田 剛
山鹿市立鹿本小学校 校長
中島 賢一
中島 賢一
山鹿創生アドバイザー 熊本eスポーツ協会顧問 福岡eスポーツ協会会長

全国初。画期的なプログラミング学習導入の背景とは

山鹿創生アドバイザーの中島さん(左)と山鹿小学校の中川校長(右)

山鹿創生アドバイザーの中島さん(左)と山鹿小学校の中川校長(右)

「それ、やるよ。すぐやろう」
全国初となるゲーム機を使ったプログラミング学習の導入は、熱意ある校長の即断から始まった。

熊本県山鹿市。歴史ある温泉地として知られる人口5万人ほどのこの町で、「Nintendo Switch」を使ったプログラミング学習が試行されたのは2021年のこと。なぜこの小さな町で前衛的な教育方法の導入が実現したのだろうか。

鹿本小学校

山鹿市は2021年3月より「e-City YAMAGAプロジェクト」に取り組んでいる。このプロジェクトは、新型コロナウイルス感染症の影響による観光客の激減や、外出機会の減少で希薄となった団体間・世代間のコミュニケーション不足、連携不足を改善するため、「eスポーツ」などを活用して交流促進や就労能力の向上、ICT(情報通信技術)人材の育成などを図る事業だ。その一環として「熊本eスポーツ協会」と連携協定を締結するとともに、同協会顧問で山鹿市出身の中島賢一さんに「山鹿創生アドバイザー」を委嘱。その中島さんこそ「Nintendo Switch」を使ったプログラミング学習の仕掛け人であった。

お話をされる中川校長

「突然、アポなしで中島さんが市職員の方と一緒に学校に来たんですよ。ゲーム機を使ったプログラミング学習ができませんか、と」

そう話すのは、当時の山鹿市立鹿本小学校校長で、現在は同市立山鹿小学校の校長を務める中川英明さんだ。そして、このときの発言が、冒頭の「すぐやろう」だった。

プログラミングができるソフトが表示されたNintendoSwitch

中島さんがプログラミング学習の教材として提案したのは、「ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」というソフトだ。これは「ノードン」と呼ばれる仮想の生き物(ゲームの構成要素)をつなげながら実際にゲームを作成し、その過程を通じてプログラミング体験ができるもので、一般に市販されている。「公立学校で市販のゲームを授業に取り入れる」―。そんな前例のない取り組みに臆することなく挑戦した背景を中川校長はこう振り返る。

「あるとき、テレビで小学生によるプログラミングの全国大会を観て感動したんです。子どもたちが作ったアプリやゲームの出来はもちろん、実に堂々とプレゼンしていて。作品の中には、交通事故を防ぐアプリや家族の薬の飲み忘れを防ぐアプリなど普段の生活に身近なものもありました。信号や自動ドア、エレベーターなど、当たり前にあるものもすべてプログラミングによって成り立っている。そこへの気づき、そしてそれはどんな仕組みなのだろう? 自分ならどうやるだろう? そんな思考力や発想力を山鹿の子たちに育んでほしい。そう強く感じたんです」

そんなタイミングでなければ即断はなかったかもしれない。また、中島さんと一緒に訪れた市職員の女性も熱血の人で、この試みを強く後押しした。

中島さんたちが訪れたときはすでに2学期。授業スケジュールやカリキュラムは当然決まっていた。それでも「すぐやろう」という中川校長の言葉通り、すぐさま6年生を対象に20時間の学習時間を確保。プログラミング学習を「プロジェクトe」と名付け、2022年3月には子どもたちが作成したゲームの発表会も成功させた。

「本当にいろいろな偶然が奇跡的に重なりましたよね」と中島さんは当時を振り返る。行政の取り組み、専門家のアイデア、熱意を持った人同士の出会い。鹿本小学校がそのクロスポイントとなったのである。

導入には不安やハードルも。だがそれは杞憂だった

お話をされる中川校長

「プロジェクトe」の導入にあたっては、クリアしなければならないことが大きく3つあったという。校長が即断したとはいえ、新たなプログラミング学習を行うには、県の教育委員会・児童の保護者・現場の教師の同意・了承が必要となる。教育の分野に限らず、どんな組織でも新たな試みや挑戦に反対や混乱はつきものといえる。しかし。

「親御さんの反対がなかったことは意外でした。そんな地域は滅多にないですよ」と中島さんは言う。「ゲーム=悪者というイメージを持つ人も多いのではないかと思っていた」という中川校長の不安はもっともだし、「勉強がおろそかになるのではないか」という懸念の声があがることも予想していた。しかし、それが杞憂に終わったことはうれしい誤算だった。あるいは、中川校長や中島さんの熱意がそうさせたのかもしれない。

また、教師にとっても新たな試みは仕事が増えることにつながりかねず、なかには難色を示す者がいても不思議ではなかった。だが、これも杞憂に終わる。もちろんクリアしなければならないことは多かったが、教師たちの意欲的な姿勢は中島さんも驚くほどだったという。

そして2つめは絶対に必要なハード、ゲーム機である。想定する必要台数は90台。苦労をしたが、なんとか調達することができた。

タブレットの画面を指差す中川校長

そして3つめが一番のハードルだった。それは教える側の練度だと中川校長は語る。

「なにしろ誰もやったことがないことを教えなければならないんです。だからリードオフマンが必要でした。まずは教師の一人と(外部から派遣される)ICT支援員が自分たちでゲームを作ってみることから始めました」

自分たちがやってみて、そこで気づく疑問や課題を抽出して解決策を考え、フィードバックする。教師たちにとっても試行錯誤しながらの船出だった。

NintendoSwitchとカードで実際に勉強する子供達

その一方で、教師たちが試行錯誤するものを6年生たちができるのだろうか、との懸念も生まれた。だが、実際に「プロジェクトe」が走り始めると子どもたちの吸収力はすさまじく、教師が置いていかれそうなほどだったと中川校長は笑う。
「子どもってすごいなと。とても頼もしく思えました」

3年目を迎えたプログラミング学習の手応え

鹿本小学校の水田剛校長(左)と山鹿創生アドバイザーの中島さん(右)

「プロジェクトe」は、2023年度で試行から3年目を迎えた。現時点での手応えや率直な感想を、中川校長と2022年4月から鹿本小学校に着任した水田剛校長にも話を伺ってみた。

「素直に"やってよかったな"と。去年の発表会では、6年生が自分たちで作ったゲームをプレゼンし、5年生にそのゲームを実際にプレイしてもらいました。そこでは集中していない子が一人もいなかった。蚊帳の外にいる子もいない。これはすばらしいことだと思います」

さらにこう続ける。

「勉強は苦手でもゲームは得意って子がいるでしょう? そんな子がここぞとばかりに生き生きしているんですよ。水を得た魚のように、堂々と、胸を張ってプレゼンする。そういった機会の創出になっていることもうれしかったですね」

それは何よりの成功体験だったに違いない。中川校長の言葉を借りれば、「ゲーム=悪者」というレッテルに後ろめたさを感じていた子も中にはいたかもしれない。だが、こうした成功体験が自信となり、より得意分野に没入すれば、才能の開花やさらなる成長につながる。どの分野でも、一流になる人はそれに夢中になれる人であろう。これも人材を育てる種まきだと思う。

山鹿市立鹿本小学校の水田校長

山鹿市立鹿本小学校の水田校長

一方の水田校長は、子どもたちでなく、大人たちの気づきに言及した。

「私も着任当初はいろいろな不安がありました。一番は子どもたちがついていけるのだろうかと。でも、小学生にプログラミングは難しいのではないか。そんな固定観念は捨てなければならないと気づかされました。期待以上のやる気と成長を感じています」

今年3月には2回目となる発表会も行われた。発表を行った6年生(同3月卒業)は、去年1回目の発表会でプレゼンを受けた子たちだ。

「自分たちが楽しむ側から作る側になり、とても前向きに取り組んでいましたね。同じようにこのときの5年生が今は6年生になり、今度は自分たちの番だと意気込んでいます。こういうサイクルはモチベーションやノウハウの蓄積にもつながります。また、現在のプログラミング学習について改めて保護者にアンケートをとりましたが、好意的な意見ばかりでした。今の時代に必要な学びの場なんだと受け容れてもらえています」
水田校長の言葉は、「プロジェクトe」の今後の道筋が明るいことをうかがわせる。

山鹿式プログラミング学習の課題と未来への展望

お話をされる水田校長

「Nintendo Switch」を活用したプログラミング学習、いわば「山鹿式プログラミング学習」の未来に期待はふくらむが、もちろん課題もある。その課題の一つとして、水田校長は指導マニュアルの作成を挙げる。

「来年度は山鹿小学校でも同様のプログラミング学習を導入予定です。いずれは市内全校に広げていきたいですが、そのためにもやはり指導マニュアルが必要です。子どもたちに何を身につけさせたいかを明確にし、共有しなければいけません」

お話をされる中川校長

中川校長も同様に教える側のマインドが課題とする。

「難しいのは、教える側がこれをやる意味や価値をきちんと知っていないといけないことです。そして、ただプログラミングを教えるだけの作業にならないようにしないといけない。どういうことかというと、教えるのはスキルじゃないんです。スキルは後でいい。まず子どもたちに学んでほしいのはマインド。チャレンジする勇気、自分で解決方法を探り、トライ&エラーを繰り返す。その思考なのです」

すなわち、プログラミング的思考である。プログラミング的思考とは、簡単にいえば「問題を解決する最適な方法を試行錯誤しながら導き出す」こと。それをゲームで楽しみながら学んでほしい、と中川校長は力を込める。

そのうえでめざすのは、人としての成長である。

「ゲームをする側から作る側になったとき、世界観が変わる。これは中島さんがおっしゃったことですが、日常にある当たり前のことを享受するだけでなく、その仕組みや成り立ちに心を寄せてほしいんです。与えられたものを消費するだけの人間になってほしくない。自分でやってみる、失敗する。そうして何が足りないかを考え、気づく。それが物事の本質を考えるという思考です。それは対人関係も同じ。本質をとらえようとすることは相手の心に思いを巡らせることになるはずなんです」

NintendoSwitchでのプログラミングに熱中する子供達

山鹿市の「e-City YAMAGAプロジェクト」では、将来的に市内全校での「山鹿式プログラミング学習」の導入に加え、国指定重要文化財である芝居小屋「八千代座」でのプログラミング成果発表会の実施を目標に掲げている。つまり、先進と伝統の融合である。想像をたくましくすれば、いつの日か「八千代座」でプログラミング全国大会やeスポーツの国際大会が開かれ、そこで山鹿市でプログラミング学習を受けた人たちが活躍するかもしれない。夢はふくらむばかりだ。

※Nintendo Switchは任天堂の商標です。
※© Nintendo

中川 英明
中川 英明
山鹿市立山鹿小学校 校長
熊本県山鹿市出身。熊本県内小中学校の教員、熊本県立教育センター指導主事、山鹿市教育委員会指導室長、熊本県玉名教育事務所長等の行政経験を経て、現在に至る。校長歴3校目。「授業で子供を育てる」ことをモットーにし、とことん授業研究に励んだ教諭時代、管理職になっても教育の魂はそこにある。これからの時代、より豊かな人間力が必要となる。その人間力の源は、「ポジティブ、クリエイティブなマインド」、そのマインドは 実体験と考え抜く経験で形成される。昨年度赴任した山鹿小でも、伝統である6年生の「八千代座公演」を継承するとともに、3年生「豊前街道YouTube動画作成」4年生「山鹿総太鼓」5年生「山小コーラス」を新設した。本年度から山小プロジェクトeに挑戦する。
水田 剛
水田 剛
山鹿市立鹿本小学校 校長
熊本県熊本市出身。熊本大学教育学部小学校教員養成課程卒業後、昭和63年4月から教職に就く。主に中学校に勤務、専門は数学教育。平成28年4月より3年間山鹿市教育委員会に勤務。学校教育指導室審議員及び室長を経て、現在に至る。校長歴2校目。教諭時代は生徒に数学の持つ美しさ・よさ、考える楽しさを実感させる授業を追求してきた。
モットーは「失敗と書いて成長と読む」。趣味は陶器(コーヒーカップ)収集、喫茶店巡り、マラソン。熊本県個を生かし集団を育てる学習研究会会員となっており、学生時代に始めたビオラで熊本交響楽団団員として現在も活動中。
中島 賢一
中島 賢一
山鹿創生アドバイザー 熊本eスポーツ協会顧問 福岡eスポーツ協会会長
熊本県山鹿市出身。東京のIT企業を経て、福岡県に入庁。
福岡県にてコンテンツ産業振興を活発に行い、福岡県Rubyコンテンツ産業振興センターを立ち上げ、2013年に福岡市へ移籍。ゲーム・映像係長や創業支援係長として、ビジネス支援に奔走。 その後、公益財団法人福岡アジア都市研究所にて都市政策をベースとした研究事業のコーディネータとして活動し、在職中に2018年9月に福岡eスポーツ協会を立ち上げ、同時に熊本eスポーツ協会顧問に就任する。2019年4月『楽しい』でもっと世の中を良くしようとNTT西日本に移籍。プライベートでは、17年以上にわたってトレーディングカードゲームのイベントを開催し、子どもたちからデュエルマスターと称されている。
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