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ネイチャーポジティブとは八百万の神 専門家による遠い世界の話ではない
人類の生存を脅かす地球課題として、気候変動とともに挙げられる「生物多様性」。COP15で世界的な目標をつくる交渉が進み、近年では「ネイチャーポジティブ」というワードも用いられているが、具体的にどういったことなのか、一般生活者にはあまり認知されていない。そこで今回は、WWFジャパン理事の河口眞理子さんと、生物多様性グループ長の松田英美子さんにインタビュー。もう一度原点に立ち返り、生物多様性(ネイチャーポジティブ)とは何か、そして私たちはそれについてどう取り組んでいくべきかを伺った。
河口 眞理子
河口 眞理子
WWFジャパン 理事
立教大学特任教授
松田 英美子
松田 英美子
WWFジャパン 生物多様性グループ グループ長

地域によって生態系も気候も違う
まとまりづらいテーマとキーワード

現在、世界の生態系はどういう状態にあるのでしょう。その中で、ネイチャーポジティブという言葉はどのような過程で生まれ、どんな意味で使われているのですか。

河口眞理子さん

河口
まず、生態系がどれだけ危機にさらされているか簡単に説明していきましょう。人間は1万2千年前に比べると、森林の面積を3分の1切り、地球が一年間で生産できる自然資源の1.6倍を使い、そして世界の生態系は68%も減ってしまっています。
地球の寿命(46億年)を1年に換算すると、人間が誕生したのは12月31日、大晦日なのです。そして産業革命が起きたのは大晦日の23時59分58秒。ここから近代化が進み急速に便利になりました。産業革命から現在に至るまでたった2秒。その短期間で、地球の生命圏が作ってきた生態系バランスをこんなに壊してしまっているわけです。

地球の環境容量を超えてしまった人間活動

世界のエコロジカル ・ フットプリント グラフ

世界のエコロジカル ・ フットプリント(※) 推移
(出所:WWF「生きている地球レポート 2020」)

● 1970年代初頭以降、人類は地球の生産量以上を消費し続けており、その差は広がっている。
● 2019年、私たちは地球が1年間に生産できる範囲の1.6倍を使ってしまっている。
(※エコロジカル・フットプリント)
● 2020年の予測では、コロナによる経済活動の制限により10%程度削減するとされる。
● 非意図的であっても、経済活動を抑えれば、 エコロジカル・フットプリントは減少する。
● 意図的に戦略的に削減しなければならない。

※ エコロジカル ・ フットプリントとは
私たちが消費する資源を生産し、社会・経済活動から発生する二酸化炭素を吸収するのに必要な生態系サービスの総量

生態系サービスイメージ

(出所:WWF「日本のエコロジカル・フットプリント 2017年最新版」より)

地球の環境容量を
超えてしまった人間活動

世界のエコロジカル ・ フットプリント グラフ

世界のエコロジカル ・ フットプリント(※) 推移
(出所:WWF「生きている地球レポート 2020」)

● 1970年代初頭以降、人類は地球の生産量以上を消費し続けており、その差は広がっている。
● 2019年、私たちは地球が1年間に生産できる範囲の1.6倍を使ってしまっている。
(※エコロジカル・フットプリント)
● 2020年の予測では、コロナによる経済活動の制限により10%程度削減するとされる。
● 非意図的であっても、経済活動を抑えれば、 エコロジカル・フットプリントは減少する。
● 意図的に戦略的に削減しなければならない。

※ エコロジカル ・ フットプリントとは
私たちが消費する資源を生産し、社会・経済活動から発生する二酸化炭素を吸収するのに必要な生態系サービスの総量

生態系サービスイメージ

(出所:WWF「日本のエコロジカル・フットプリント 2017年最新版」より)

河口
1992年に開かれたリオの地球サミットで、地球環境の二大課題として気候変動と同時にこの問題も「生物多様性」として注目されました。気候変動の注目度は年々高まってきていますが、生物多様性の問題も並行し、粛々と専門家の間で議論がなされているんです。ただ、こちらはなかなか表現が難しくて世間に届いていかない、というのが実際のところですね。

2010年には「愛知目標」という、2020年までに達成する生物多様性についての20の目標が掲げられました。ところがこれが何一つ達成できなかった。ひどい結果ですよね。

何一つ、ですか。かなり危機感を覚えます。ここまで深刻なのに、生物多様性は気候変動に比べ、なぜここまで認知されにくいのでしょう。

河口
気候変動は、誰もが生活するうえで必ずCo2を排出しているので、民間も企業も「全員がすべきこと」と捉え、グローバルな目標が一つに絞りやすい。温暖化、異常気象、省エネ、カーボンニュートラル......、キャッチーな言葉もたくさんあります。でも生物多様性は、国や地域によって生息する生物が違うので、北極ではシロクマがいなくなる、日本はメダカがいなくなる、など直面する問題も対策もそれぞれ違ってきます。

北極イメージ

河口
文字の通り「多様」だから、一つの指標を立てるのが本当に難しい。気候変動の「カーボンニュートラル」的なパワーワードも、専門以外の人に興味を持たせるビジネスモデルも見つけにくい。結局「ダーウィンが来た!」的な生き物好きの人たちだけの遠い世界の問題で「概念はぼんやりわかるけど、具体的に何をすればいいのか分からない」と感じている人が多いと思います。

日本国内ですら、ある地域で危険を感じても別の地域には響かないケースも多そうです。

河口
日本は東京が発信基点になっていることも大きいですね。東京は人工的な環境なので生態系が減少してもすぐには困らない。でも地方では、従来獲れていた魚がいなくなり獲れなくなった漁業関係の方、高齢化の中で獣害や竹林増殖の被害を受けている農村の方など、かなり大変な状況になっています。東京の人が困れば大々的に報道されるだろうけれど、地方での被害はあまり発信されず通り過ぎてしまうわけです。

生態系サービスの経済評価 : 森林の事例から

生態系サービスの経済評価 :
森林の事例から

生態系サービスの経済評価

出所)「生態系と生物多様性の経済学The economics of ecosystems & biodiversity (TEEB) 中間報告」
    2008住友信託銀行・(財)日本生態系協会・(株)日本総合研究所
原典)P.ten Brink, Workshop on the Economics of the Global Loss of Biological Diversity, 5-6 March 2008を基に大和総研作成

河口
しかも、自然の生態系って黙っていなくなるんですよね。そもそもなぜ短期間でここまで生態系が劣化したかというと、その経済価値が見えづらいから。たとえば森の中にはいろんな生物がいて、人間にはリラックス効果などのメリットもあるけれど、当たり前のようにそこにあるので、タダ(無料)だと思われている。一方立木には値段がついているので、森林経営に関する経済判断は「何本切ったらどれだけ儲かるか」という目先の利益に依拠し、儲かるとなるとどんどん切られていきます。そして、値段がついていない重要な生態系の働きが「いつのまにか」失われる、という悪循環。日本は急峻な地形で雨が多いのでそれを埋めとめる森や棚田が減り、洪水が各地で増えているのがまさにそうですね。

生物多様性・ネイチャーポジティブは
日本らしく表現すると「八百万の神」

松田英美子さん

松田
CO2排出削減の問題と、生物多様性を回復が同時並行で取組むことが求められています。例えば、森林はCO2の吸収源になるわけで、CO2排出削減対策にもなりえます。また気候変動の「カーボンニュートラル」という目標に対して、生物多様性の回復を目指すことを意味する「ネイチャーポジティブ」という言葉が出てきました。この言葉を2030年に向けた達成目標として掲げているところですね。

気候変動イメージ

河口
専門家としてはこうした単語はわかりやすいですが、一般のひと目線に立つと「カーボンニュートラル」「ネイチャーポジティブ」、横文字だらけの表現が多過ぎますよね。だから遠い話にしか思えない。生物多様性は、日本では「八百万の神」というのが私の持論です。あらゆる生物多様な中に私たちは生きていて、すべて「神様」と呼んでいるのが日本の感性じゃないのかな。「トイレの神様」という歌が現代でもヒットする国ですから。
「エシカル消費(環境に配慮した消費行動)」も「おかげさま」。農家のおかげさま、きれいな水のおかげさま。このほうが、社会の中で私たちがいかに自然の恵みを受けているか、伝わりやすい気がします。

日本の四季を観察し
あるべき感性を取り戻す

現在の悪循環を抜け出すため、地域の特性を生かした取り組みでWWFがウォッチされていること、実際に動かれていることはありますか。

松田
WWFの取り組みの代表的な例としては、淡水チームが、九州・有明海沿岸で水田環境の保全プロジェクトを進めています。この地域は湿地としても貴重な場所です。地域と協力して水田と生態系を維持する、そしてその水田で収穫した米をブランド化しようというプロジェクトが動いています。

水田イメージ

河口
こういったビッグプロジェクトはぜひ成功させたいですが、一方で生物多様性は、すぐ身近に存在します。日本は古くから里山を作って、生態系をより豊かにする仕組みを作っていました。今でも大阪は街なかこそ緑は少ないけれど、少し遠出をすれば、豊かな自然や農村地帯があります。住吉大社の御田のように独自に生態系を残しているところもあるので、そういった地域を維持・回復するため協力体制を取っていくのが目標ですね。

身近なところから意識を変えていくことが大事ですね。例えば、若い世代だからこそ積極的に取り入れられること、また、日常的に心がけることはありますか。

生物多様性:新宿の庭

河口さんの新宿のご自宅の庭には、水鳥の卵が見つかったり、ムカゴが繁茂していたりよくわからない雑草が繁茂しているそうです。

河口
今の若い人達は自然と関わる機会は圧倒的に少ないけれど、自然に対してネガティブな感情を持っていない。だから自然や四季を感じれば、いろんな気づきがあると思います。SNSに風景の写真をアップするのもいいし、俳句や華道、茶道などを習うのもいいですね。私は俳句をはじめて3年になりますが、季語を入れるためネタを探さなきゃいけない。観察することで、毎日四季の変化を感じています。

四季イメージ

河口
今私が作りたいのが、歳時記の中で絶滅危惧のものを赤く塗り潰していく「レッド歳時記」です。生活で受けてきた四季の恵みや、生態系に合った衣食住が、あれもない、これもない、と真っ赤になれば、日本がどれだけ変わったかが分かるでしょう。

松田
河口さんのおっしゃる通り、自然を感じるのはとても大事です。それがきっかけで、私たちが食べているものはどこから来ているのか、本当に消費が必要なものか、など小さなことから考え直していくのが大切だと思います。

河口
コロナによって、都市集中型から地方に目が向き始めているので、今がいいタイミングでもありますね。国の政策では、「30by30」といって、2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する、という目標が立てられています。注目度も上がるだろうし、これまでの極端に人工に振って失敗した経験とも向き合えば、良いバランスを探していける気がします。

消費者として、環境保全を考えて商品を選ぶ目安はありますか。

商品選びイメージ

河口
なるべく丁寧に、自然の恵みや社会影響を考慮して作っているものを選ぶ発想は大事ですね。私が今勤めている不二製油グループでは、日本の企業としては先駆け、2016年から「責任あるパーム油調達方針」を策定するなどのサステナブル調達に取り組んでいます。原材料調達段階で環境破壊や人権侵害をなるべく減らす取り組みです。今後様々な企業がそういった取り組みをしていくので皆さんがその動向をウォッチし、商品を選ぶといいと思います。環境に配慮して生産された素材、認証された商品にはエコラベルが付いているので、それをチェックする方法もわかりやすいですね。
消費する私たちは選ぶ権利と同時に責任もあります。スーパーでは、IUU漁業という密漁や規則、人権を無視した漁船によって獲られた魚介類、そしてウナギなどの絶滅危惧種がシレッと並んでいたりします。素材がどんな地域でどのように生産されるのか、どんなに生態系の中で失われているか、その仕組みや実態を知れば、自然と商品選択の見方が変わってくると思います。

ネイチャーポジティブとは「専門家による遠い世界の取り組み」と思っていたのですが、イメージが変わりました。

河口
「根っこ」ですね。生物多様性とは動物園の檻の向こう側の世界では決してなくて、私たちの暮らしそのものがネイチャーポジティブ。生きる基盤の足元を壊しちゃまずいでしょう。今回の話で、ひとりひとりがそれを意識し、感じていただければ嬉しいです。変化に気づけば、それぞれの地域・ポジショニングで、できることが必ず見つかりますから。

河口 眞理子
河口 眞理子
WWFジャパン理事、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授、不二製油グループ本社 CEO補佐。
一橋大学大学院修士課程修了(環境経済)後大和証券入社。大和証券グループ本社CSR室長、大和総研研究主幹など歴任。2020年4月より現職。企業の立場(CSR)、投資家の立場(ESG投資)、生活者の立場(エシカル消費)のサステナビリティ全般に関し20年以上調査研究、提言活動に従事。現職では、サステナビリティ学についての教育と、エシカル消費、食品会社のエシカル経営にかかわる。
松田 英美子
松田 英美子
生物多様性グループ グループ長 パブリックセクターパートナーシップグループ グループ長。
博士(応用微生物学・東北大学)学位取得後、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)の国立がん研究所にて、酵母を使った基礎研究に8年従事。日本に拠点を移したのち、特にASEAN諸国を対象とした気候変動対策や、気候変動枠組条約国際交渉などに携わる。2019年にWWFジャパン入局。生物多様性担当。
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