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地域の明るい未来図を共に描き発見する場所

地産酵母から発展した地域交流 バイオテクノロジーの専門家が語る地域振興とは
地産酵母を採取し、地元酒蔵と連携して商品化に成功した向教授。そのノウハウを活かし、酵母も麦芽もホップも「オール彦根」のクラフトビールを共同開発し、地域産業につながる商品開発に携わっている。 「いつも学生とばかりいるので、商品開発でいろんな人と関わるのは面白いですね」と目を輝かせる向教授に、地産酵母が生まれた経緯や地元企業との連携秘話、地産酵母を活用した次なる可能性や地域振興への想いについてお聞きした。
向 由起夫
向 由起夫
長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部教授

授業の一環だった「酒蔵見学」
地産酵母を使った酒造りの出発点

向教授は細胞や酵母など、微生物研究がご専門です。そもそも、梅の実を使った酒造酵母を開発するきっかけを教えていただけますか。

最初は、授業の一環から始まりました。そもそも、私が教えている応用微生物学(バイオテクノロジー)は酵母との関係が深く、出芽酵母はパンや酒の製造に使われる微生物であると同時に、ヒトと同じ真核生物であることから、遺伝学や生化学の基礎研究に欠かせないモデル生物なのです。

向教授

生徒たちが普段研究している微生物を身近に感じるために、「微生物を使ったモノづくり」を体験させてみてはどうだろうか。それには、酵母を発酵させて商品となる、日本酒の製造過程を見学させていただくのが最適だと考えたのです。そこで、いくつかの酒蔵さんにお声がけしたところ、管理の問題上難しいと何件か断られました。そんな時に快諾してくださったのが、創業160年の歴史を持つ酒蔵・岡村本家さんでした。

岡村本家さんから梅の実を使った酒造酵母の商品が発売されています。そこから、共同開発が始まったのでしょうか?

いえ、すぐにではないです。見学会が何年か続き、お互いに信頼関係ができたくらいでしょうか。岡村本家さんから「独自の酵母を見つけて、お酒を造ってみたい」というお話をいただき、「それじゃあ一緒に楽しみながらやってみましょうか」とゆるい感じで始まりました。というのも、日本酒の醸造は、日本醸造協会が頒布する「きょうかい酵母」を使うケースが一般的だったので、最初は本当にできるのか。チャレンジ的な意味合いも大きかったです。

酵母採取は、うちの学生たちが挑戦しました。まずは、岡村本家の木樽や天井から酵母を復活させようと採取を試みましたが、うまくいきません。「それなら敷地内にある何かから天然酵母がとれないか」と、植物や花、果実などからサンプリングしたところ、20種類の酵母を採取することができました。そして、梅の実から、酒造に適しているとされる安全な「サッカロミセス・セレビシエ(学名)」という酵母を突き止めました。

木の実

ここからは、岡村本家さんの出番です。まずは、小ロットの小仕込みで試験醸造した日本酒を、学生たちを含めて試飲させていただきました。「きょうかい酵母」を使った日本酒はキリッとしている印象ですが、「梅の実の酵母」を使った日本酒はマイルドで、学生には「美味しい」と好評でしたね。そこから、「梅の実の酵母」を使った日本酒の商品化、発売へとつながりました。

地域振興につながる手応え、みたいなものを感じましたか?

手応えまではいきませんが、「気づき」くらいでしょうか。「研究・開発」の大学と「モノづくり」の企業(酒蔵)がうまくマッチングし、「地産酵母を使った日本酒」という商品が誕生したことで、新聞などのメディアが取り上げてくれました。これが、「地域にスポットが当たる」という初めての体験でした。バイオ(酵母)と原料が特殊だったため、余計に注目されたのかもしれません。

また、商品化された日本酒のラベルに、共同開発として「長浜バイオ大学」の名前が入ることも、大学にとっては大きなメリットになりました。学生も自分たちで発見した酵母が商品化された体験を卒業研究として発表することもできて、とてもいい経験になったと思います。卒業論文を発表した学生ですが、現在クラフトビールの会社を起業するという話も聞いています。大学という枠を超えた活動で、探究心はもちろんですが、起業家精神とでもいいますか、自分たちなりの「学び」を感じていたのかもしれません。

中学高校生の科学部も酵母採取に参加
地域と人材を育む産学連携プロジェクト

「地産酵母を使った日本酒」の成功体験が、「彦根ビール酵母探索プロジェクト」へとつながっていくのですね。

そうです。「地産酵母を使った日本酒」として新聞で取り上げられたこともあり、今度は彦根麦酒さんから、共同開発のお話をいただきました。彦根麦酒さんは、2021年5月に設立された新しい会社です。彦根産原料を100%使った「ALL HIKONE BEER」の製造をめざし、彦根市内に眠るビール酵母を探すために、うちと連携することになりました。麦芽(大麦)やホップ栽培は「彦根麦酒」さんが、地元住民有志や他の大学と連携して2021年から生産を開始しています。

ビールは下面発酵か上面発酵で造られており、大手がつくる下面発酵がラガービールで、その酵母がサッカロミセス・パストリアヌス(学名)。そして、クラフトビールなどの上面発酵=エールビールに必要な酵母が、先ほどから出ている「サッカロミセス・セレビシエ(学名)」なのです。

荒神山醸造所

なるほど。同じ「サッカロミセス・セレビシエ(学名)」だから、彦根麦酒さんに協力できたのだと納得しました。ところで今回は「産学連携プロジェクト」ということですが、長浜バイオ大学以外にも新しい学校は加わったのでしょうか?

前回は大学生だけでしたが、今回は中高生も参加します。滋賀県彦根市石寺区にある広大な「非農用地」の活用課題もあり、その近くの中高一貫校・河瀬中学高校の科学部に「コラボレーションしませんか?」とオファーを出したところ、快諾いただきました。中高大学生による、酵母探しの始まりです。今回の採取地ですが、1つ目が「彦根城」、2つ目が石寺地区と河瀬中学校高校の中間地点にある「荒神山」になります。

まず、1つ目が彦根城です。古来からの生態系が維持されている特殊な環境で、かなりの数の植物が保存されていました。彦根市にしか生息しないオオトックリイチゴから「サッカロミセス・セレビシエ」が採取されたのですが、培養の段階で死滅してしまいました。今後、要因を解析してまたトライしてみたいと思っております。そして、2つ目が荒神山です。植物や花、果実からは採取できませんでしたが、キノコについていた酵母から「サッカロミセス・セルレビシエ」を見つけることができました。

荒神山醸造所

荒神山を背にした「荒神山醸造所」

これからビールの商品化をめざすわけですね。楽しみです。

はい。荒神山から採れた地産酵母を使って、地ビールの商品化をめざします。新しい地産酵母を使った初めてのビール、酵母の働きで味や香りがどのように仕上がるのか楽しみです。

ただ、日本酒は日本醸造協会の「きょうかい酵母」から頒布された酵母を自社の酒蔵で増やす方法をとっていますが、ビールは日本で協会などの組織がなく、海外からビール酵母を購入するのが通常です。しかも、自社で増やす技術がなく、必要な量だけキロ単位で購入します。そこが日本酒と大きく異なるところ。地産酵母を培養するまでは想定していますが、そこからどう増やすのか。そこが、ビール商品化の大きな課題ですね。

河瀬中学高校の科学部の学生たちも、いい経験になりましたね。

河瀬中学高校の科学部も、うちの学生と一緒に酵母の培養や基礎研究などを進めていたので、彼らは大学レベルの研究に携わったことになります。地域に関わる人材の育成も、産学連携プロジェクトの成果だと思います。

地元の蜂蜜を使った酒造り開始
産官学連携で地域商品開発に取り組む

そして今、滋賀県東北部エリアで産官学連携のプロジェクトが進んでいるとか。

文部科学省の支援事業として、彦根・長浜・米原地域におけるSDGsを活用した、学術文化教育基盤形成を目的とする大学・短期大学・地域連携のプラットフォーム「びわ湖東北部地域連携協議会」があるのですが、長浜バイオ大学はその幹事校です。地域活性化や産業振興、人材育成などいくつか課題があるのですが、まずは地域産業から着手することになりました。彦根・長浜・米原の産業振興として白羽の矢を立てたのが、滋賀県産の蜂蜜でした。

養蜂

なぜ、蜂蜜だったのでしょうか?

地元に安土養蜂園があること、そして蜂蜜と水だけで造る「蜂蜜酒ミード」という醸造酒が割と簡単に作れることにも注目しました。「ミード」はワインより古い人類最古のお酒なのですが、今後流行るのではないか、という目論みもあります。

醸造所

ここから、今まで培ってきた酒造ネットワークが活きてきます。岡村本家さん、彦根麦酒さん、そして佐藤酒造さんに、「蜂蜜を使ったお酒を作りませんか?」とお声がけしました。「米長滋彦(よねながしげひこ)の蜂蜜会」を発足させ、2022年秋に商品化する予定になっています。

産官学が連携して地産品を使い、また新しい商品が生まれるのですね。教授は酵母の可能性も含め、地域振興をどのようにお考えですか?

まず、酵母の可能性からお話しします。今回、滋賀県で見つけた2種類の地産酵母「サッカロミセス・セレビシエ(学名)」が酒造に向いていることがわかりました。ですからまた、地元企業と協力して世界にない地産酵母を見つけ、商品化につながれば面白いですよね。

「地産酵母を使って商品化」することが、地域振興に役立つとお考えですか?

ただ、「地産酵母を使って商品化」すること自体が目的ではありません。地元の原料を使って、地元の企業が商品化する。それだけで「話題性」があり、地域にスポットライトが当たります。これは、私が地産酵母を使った日本酒造りから気づいたことです。そしてそれは、関わった企業や行政の方々の「気づき」にもつながったのではないでしょうか。

向教授

初めはその商品だけかもしれません。しかし、それが起爆剤となり、「地元原料を使った話題の商品を増やそう」という活動が生まれます。地域交流が深まり、自然と活気も生まれます。すると、地域全体が注目され、足を運ぶ人もだんだんと増えてきます。その方々がお金を使うことで、地域経済が潤う。最終的には、そんな「正の循環」による地域振興が目的なのです。

そのためには、岡村本家さんの時ように、日頃から地元企業の方と交流して信頼関係を築くことが大切になります。雑談の中から「何に困っているのか」商品化の種を見つけて、「話題性のある商品」をつくって情報発信するのが、私の役目かと思っています。これからも地元経済の発展に、地域振興に貢献できればいいですね。

向 由起夫
向 由起夫
大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。大阪大学工学部助手、同大学院工学研究科助手を経て、テキサス大学 M.D.アンダーソンがんセンターへ出張後、本学へ。職位は教授、学位は工学博士(大阪大学)。専門分野は遺伝学、分子生物学、応用微生物学。細胞寿命、抗老化、酵母、遺伝学を研究している。老化の遺伝要因と環境要因および老化を制御する仕組みを明らかにし、抗加齢(アンチエイジング)へ応用する研究に着手。また、メタボローム情報を利用した遺伝子機能の解明にも取り組んでいる。現在は、びわ湖東北部の地域貢献に尽力。
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